久場由紀子さんの<紙面批評>を絶賛する
沖縄王版『琉球新報』紙面批評−2004年1〜2月分


 私には年に1度だけの趣味がある。1月1日付の新聞各紙を読み比べるのだ。『毎日』『朝日』『読売』『産経』『日経』『東京』の特ダネや企画を読み比べる。今年は全般に不作で、普段の紙面とほとんど変わりがなかった。「あれまぁ」と思わずにはいられなかった。

 さて、こんな中で圧倒的な特ダネを出したのが『琉球新報』である。 日米地位協定に関する政府の基本解釈となる機密文書の存在を明らかにしたのだ。 さらに、連載<地位協定の考え方>や13日付朝刊の8面から15面に掲載した機密文書全文など、 多角的な報道を展開した。文句なしに素晴らしい。

 10日付朝刊社会面は、ドキュメンタリー作家・上原正稔さんが米公文書館で入手した沖縄戦の映像を紹介した。 沖縄戦記録フィルム1フィート運動の会は顔なしである。 上原さんの行動と成果を見るにつけ、かつて1フィート事務局で手伝いをしたことのある私は「何だかなぁ」と思わざるを得ない。 もともと1フィート運動は上原さんたちが始めたと聞く。 であるならば、上原さんに1フィート運動の会に戻っていただいて再生を図るくらいのことをしてもいいのではないか。

 20日付夕刊社会面の<那覇市 公務で小旗振り>は生きのいい特ダネだ。 天皇の来県を前に、那覇市職員が<公務>として小旗振りに駆り出される計画を素早く報じた。 記者の問題意識に拍手をおくろう。21日付朝刊社会面では<那覇市が公務動員撤回>と続報を載せた。 新聞のチカラが生きた例である。

 25日付3面の<日曜論評>は、こんなのでいいのか。 大同火災海上保険社長の宮良直人さんが書いた原稿の大半が、自分の会社の歴史なのだ。 <今回は「論評」に相応しくないと知りつつ、述べることをお許し願いたい>といちおう断ってあるけれど、再び問う。 いいのか、こんなので。 <当社の認知度、特に若い世代に認知が低いとの危惧から端を発し>と正直に意図を書いてあるが、 それがどうした。相応の広告代を新報社に払いなさい。宮良さんに悪気はないのだろう。 しかしなぁ。新聞社側が原稿に対して注文をつけなければ、何でもありの世界になってしまうぞ。 新聞社が制御できないということは、なめられているということだ。ぺろん。

 2月2日付朝刊8面の<その振り込み待った><行員ら活躍 おれおれ詐欺防ぐ>はいい内容である。 業務だから当たり前といえば当たり前の行動ではあるけれど、こういう人たちの存在はうれしい。 事件段階で既報なのかもしれないが、社会面に載せていい記事だと思う。

   4日付朝刊社会面頭記事は、沖縄ブランドを守るために、商品の原料の原産地表示をきちんとすべしという報道である。

 「沖縄特産」などと表示していたシークヮーサー飲料に実はフィリピン産の原料が用いられていたことはすでに報道されている(2003年4月29日付朝刊社会面)。 ただし、『新報』を読む限りでは、シークァーサー製造販売業者は当局に事前に相談しており、 同義的責任の可能性はありうるものの、悪意があるとは思えない。

 今回は新たに海ブドウと黒糖が挙げられてた。海ブドウに輸入品があったとは。 海ブドウのどこがうまいのか私には全く理解できないので、 県産だろうが海外産だろうが私は食べない。 一方、黒糖は毎朝毎晩といっていいくらい口に放り込んでいる。 これも<タイやベトナムから輸入した原料>を使ったりしているそうな。

 この際、「県産品」の氏素性を明確にさせたほうがいい。誤解を招いてもめる前に、 正直に「タイ産の原料を78%混ぜてあります」などと記すほうが誠実である。

 5日付朝刊2面の<県内志向強く 公務員に人気>は面白い。 公務員になりたい理由の第1位は<収入が安定しているから>で、 公務員が沖縄経済を担うわけではないものの、沖縄県の経済が発展できない理由が何となく分かる。 収入の安定を求めて公務員になった人に私は何も期待しない。 民間企業に入った人の中から優秀な人材を公務員に抜擢するという無茶な制度でもつくらない限り、 公務員の体質は変わらないだろう。一部に仕事熱心な公務員がいるけれど、多勢に無勢である。

 6日付社会面は、昨年の交通違反について飲酒運転の検挙割合が<16年日本一>と最悪記録を更新していると報じた。 相変わらずである。それはいい(いや、よくないけれど、ここでは措く)。 問題なのは記事で紹介した居酒屋の経営者の意見である。 いわく<パトカーが店の近くで取り締まりのため待機していることがあるが、 客はいい気分ではない。客足に影響が出るなら営業妨害になる>だって。 どうしてこんな幼稚園児のような発言を紹介するのだろう。 パトカーが店の近くで待機しているといい気分になれないのは、 お酒を飲んで車を運転しようと考えている人くらいだろう。 お酒を飲んで車を運転しない人にとってパトカーの存在は何の支障にもなるまい。 莫迦な意見を載せたなぁと感心していたら、私以外にも気づいていた人がいた。

 22日付<紙面批評>がそれである。絶賛に値する。 沖縄子育て情報うぃず代表の久場由紀子さんの執筆で、 私と張り合うくらいの(張り合う必要はないのだが)素晴らしい紙面批評である。

 私が前述した居酒屋経営者の意見について <新聞が果たすべき役割を考えたとき、“拾うべき声”というものがあるように思うがいかがだろうか>とやんわり指摘した。 まことに正しい。

 ほかにも、特殊学級の女子が性的行為をされた事件について学校側が「強制か分からない」と答えたと記事についても、 <言葉を変えれば「合意の上かも」ということであり、この発言はさらに女子生徒やその家族を傷つけたのではないだろうか>と厳しく言及している。 実に真っ当な見解である。当該記事を読んだ際、私は違和感を感じたものの 問題点は明確に見えていなかった。私は惜しみない拍手を久場さんにおくる。

 さらに、新報社が本社を新しく建設するという記事を2日続けて掲載したことを取り上げ、 <「またか」というのが正直な感想。他にも掲載するべき記事はたくさんあったはず。 新聞が「手前みそ」になっては困る>と的確に指摘した。

 見事な指摘の連続に、新報社はどう応える?  報道に関して素人であるはずの読者から核心を突く指摘をされることは、 報道で商売している民間企業にとって非常に非常に非常に恥ずかしいと思ったほうがいい。 一般的に言って新聞社は紙面批評を載せることで免罪符を得たような気になっているかもしれないが、 紙面批評執筆者の重要な指摘に対して何らかの反応を示す義務があると思う。 報道のイロハを読者から教わるのは実にみっともない。しかし、そのみっともないことをしてしまったのだから、あとは前向きに取り組むしかない。

 商売敵の沖縄タイムス社を意識して、 ABC協会に県内で唯一加盟しているとか県内最大の発行部数だとか言って自慢している場合ではない。 (沖縄王・西野浩史)






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