自分の脳で考える記者はいないのか?
沖縄王版『琉球新報』紙面批評(2003年8月分)


 いかんいかん。もう11月も半ばだってのに、 8月分をようやく書き上げた。さっそく いくぞ。

   5日付朝刊社会面の<公用車まで不法投棄>は よかった。人通りのない場所に捨てられた車を時々 見かける。不法投棄は沖縄に限った問題ではないけれど、 観光客相手に成り立っている島なのだから、きれいに したほうがいいもんね。

 7日付朝刊の1面の頭記事は台風10号に関するものだ。 その写真は迫力がある。横殴りの雨が降る港を夜撮影したものだ。 写真説明には<6日午後10時20分、知念村の安座真漁港>とある。 そんな時間にわざわざ港まで行ったわけね。 夜の海、ましてや台風の接近する中で港に夜行くのは 気持ちいいものではない。私なら躊躇するだろうと思う。 だから、撮影者に拍手をおくりたい。

 写真といえば、モノレールの開通に合わせて始めた <各駅スケッチ 沖縄新風景>の写真もいい。 撮影場所や風景をよく考えていることがうかがえる。

 外部筆者というのは出来不出来の差が激しい。 夕刊1面の「南風」を書いている外間政吉さん (オリオンビール常勤相談役)の原稿は いつも読ませる内容である。夕刊の「落ち穂」を 書いている国吉真治さん(スポーツ靴店店長)の原稿 も中身が濃い。こういういい原稿を読むたびに、 楽屋話や反省モノが横行している 「記者の余禄」は何とかならんのかと思ってしまう。

 9日付朝刊の「金口木舌」は <昔から沖縄の女性は働き者だと言われている。大ヒットした NHKドラマ「ちゅらさん」を見ても、女性は強く、 男性は少々だらしない>で始まる。<「ちゅらさん」を見ても>と 簡単に根拠づけてはいけない。あれは単なる虚構の世界だぞ。 「働き者の男性」と「少々だらしない女性」の具体例を 私でさえいくつも挙げることができる。それだけに、 風評というか根拠のない笑い話の域を出ないものを、 あたかも確固とした事実であるかのように書くのは、 記者の資質に問題があると 言わざるを得ない。

 さらにである。東京都内の私立高校が 映画『ホテル・ハイビスカス』を鑑賞し、 <「映画で描かれているように、沖縄では女性がしっかりして いて、男性はあまり働かないのですか?」。 引率した教師から質問され、答えにきゅうした。 わが身を省みると、当たらずとも遠からずである> と、うれしそうに書いている。単なる映画と事実と混同する 教師も教師だが、「わが身」を基準にして沖縄の男性を 代表してしまうこの記者の幼児性が光る。

 沖縄の人は車ばかりで、歩かないと言われる。 しかし、これも沖縄に限った 話ではないことを私はかねてから指摘している。例えば、 11月11日付『毎日新聞』夕刊(東京本社)の 3面には群馬大の小川正行教授の「私は生まれも育ちも群馬。 群馬は車がないと生活しにくく、今の学生もそうですが、 私も大学時代から車社会にどっぷりつかっていました」などの 話が載っている。また例えば11月14日付『毎日新聞』の「仲畑流万能川柳」には <田舎ほど車なしでは暮らせない  鹿児島 神田橋房子> とある。

 地域性や独自性が本当にあるのかどうか確認したうえで 書くという基本作業ができないのなら、記者をする のをやめたほうがいいと私は思う。

 17日付朝刊2面の「記者の徹底検証」は新嘉手納統合案を きっちり報じた。下地幹郎衆院議員(当時)の提案で、 私は「次善の策」としてこれに賛成している。 読んで、私は賛意を引っ込める必要はないと あらためて思った。こういう記事を読みたかった。

 19日付「社説」は<空手発祥の地である沖縄>だから <空手道や古武道の真髄を伝えていくことは沖縄の使命ともいえる>など と書いた。<ともいえる>の<も>が気になる。 「沖縄の使命とはいえないし、 使命ともいえる」と読めるからである。私が見る限り、 沖縄の空手は今の空手の中心ではない。だから、 そんな使命感を抱かないほうがいいと思う。 <各道場が流派を超えて大同団結すること>を 社説は促しているけれど、そういうことをしたら、 琉球新報社と沖縄タイムス社が主導権を奪い合う (商売のネタにする)草刈場になるのではないか。 それを私は危惧する。琉球舞踊界の二の舞を 演じないという約束をまずはしたほうがいい。 ところで、<真髄>って何なのだろう。 そんなものが本当に本当にあるのだろうか。 あるのなら、教えてほしいぞ。安直としか言いようのない 原稿である。言葉の 使い方が安易である。これが社説なのだから恐れ入る。

 21日付「金口木舌」も変である。 <モノレール開業に合わせ本紙特集用で「乗り方ガイド」を 作っていて思った。沖縄ならではだな、と>。「沖縄ならではだな」 と一人で悦に入っている場合ではないっての。

 おまけに、モノレール開通の際の話として <案の定、乗車する時の改札で キップを取らずに乗り込む人や、降りる時にキップが 出てくるのを待っている人がいたそうだ>と、「案の定」 うれしそうに書いている。こういう人は沖縄限定ではない。 例えば私の古里・徳島でも 山間部に住む友人は汽車の切符の買い方や乗り方などを 知らなかった。人間初めて経験することにはまごつくものなのである。 それだけの話なのに、あたかも沖縄特有のことであるかのように 思い込んでいる。沖縄は特別だという先入観が強すぎるから、 そういう思い込みにつながるのではないか。 前に挙げたのと同じ変な原稿であると指摘しておく。

 26日付朝刊社会面はモノレールの開通の影響を報じた。 <タクシーにもモノレールによる影響が出ている。 那覇空港のタクシー待機所では遠距離タクシー利用者が 減少した。県タクシー協会によると、 開業前は一日百三十台前後あった遠距離タクシーの乗車回数が 開業後には五十台から七十台にダウン>したそうだ。 う〜む、分からない。だって、モノレールは近距離を 走っているだけでしょ。それなのに、どうして遠距離タクシーに 影響が出るの?
 
 16日付朝刊社会面の辺野古弾薬庫の危険区域問題のような 立派な調査報道が出るのが救いである。(沖縄王・西野浩史)






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