『琉球新報』紙面批評・拡大版その5

 本土出身の社長がこぼした。「沖縄の人の多くが会社ゴッコをしているんだか ら嫌になるよ」。生活面はテーゲーでいい。しかし、仕事に関しては厳しいほう がいいと私は思う。「会社ゴッコ」は本土では通用しないだけでなく、沖縄全体 の信用を落とす恐れがあるからだ。本土の人を相手にした企業なら、なおさらで ある。

 この立場で見ると、16日付4面「記者の余録」を書いた上原康司記者を支持 したい。県産原料に外国産原料を混ぜたウコンなどの“県産品”は 沖縄の健康食品業界全体の信用に関わる問題である。沖縄で ウコン製品を買えば、まさか外国産の原料が使われているとは 普通は思うわけがない。そういう企業の人が反発したとしても、 こういうことは知らぬ振りをしていい話ではない。問題意識のある記 事は、長い目で見ると業界をいい方向に導く。解決策は簡単である。 原料の原産地と割合を明確に出せばいいだけの話である。 “沖縄ブランド”に固執するあまり、外国産の原料を使っていることを 言い出しにくいのだろうが、そんなことが知られたら沖縄ブランド云々の 話では済まなくなる。

 支持したいといえば、普天間移設に関して 下地幹郎衆院議員(自民党)が提示する嘉手納 統合案である。国政や県政での動向と合わせて「記者席」や「政界サロン」など で何度も扱ってきた割には、氏の提案を真正面から取り上げていない。 この提案なら、自然を破壊することはないし、無駄なお金を 投じる必要もない。沖縄県は「この機会に国からお金をもらって 空港を作ろう」と考えている節があるけれど、 北海道ではあるまいに、県内に空港は2つもいらない。 というわけで、下地さんの提案は、紙幅を割いて冷静に検討する価値 が十分あると思う。

 冷静といえば、日本アジア航空機が台北に向かう途中、機械の故障で那覇空港 に降りた際の紙面である。これを報じた14日付朝刊社会面は 「急きょ着陸」という見出しだった。

 操縦士が航空管制に「緊急」を宣言した場合には「緊急着陸」となる。ほかの 飛行機が待機する中、最優先で空港に着陸できる。とはいえ、 「わずか10分程度早く着陸できるくらい」(日本航空の機長の話)だから、 緊急を宣言するのはよほどのことである。

 同機はこうした状況ではなかったが、事態の重大性を考えると、 単なる「着陸」(『沖縄タイムス』はこの表現を使った)とも言いがたい。 「急きょ着陸」は的を射た表現である。

 飛行機といえば、レキオス航空の就航遅れの記事(13日付朝刊経済面)は特 ダネだ。いい時期に出した。「県民の翼」への期待は大きいので、 無事“離陸”するまで続報を読みたい。それにしても、 「解雇をめぐる訴訟が提起されている」そうで、何をやってんだか。 そんな調子では安心して乗る気になれない。

 豊見城南高のサッカー部員による暴力に関する記事(16日付社会面) は、加害者と被害者の食い違う主張をきっちり取材して併記した点が光る。

 13日付朝刊1面の頭記事「サンゴ、海藻50ヘクタール消滅」も光った。那覇 港湾審議会の改定計画承認に関する報道で、サンゴや海藻が広範囲に消滅すると いう「予測評価」があることに焦点を当て、『タイムス』を圧した。

 一方で、“焦点”の定まらない記事が今回もいくつもあった。

 11日付朝刊経済面の「経済短信」で紹介した 「ハーバービューで島袋シェフ美食の世界」に は肝心の価格が載っていない。商品紹介の記事に価格は不可欠である。ましてや 地元の話なのだから、情報は詳しいほうがいい。読者の側に立つ情報を 書くべし。え? 電話番号を載せているんだから 読者が自分で電話して聞けってか? 

 共同通信社が配信したIP電話に関する記事(16日付経済面)には 「無料通話不能も懸念」「回線相互接続交渉が難航」と2つの見出しがあり、 前文でも触れているのに、この2点を詳述した記事がない。 実は、配信記事の後半31行分を削ってしまったのが原因である。 肝心の部分を削ってしまうとは恐れ入る。『タイムス』は全文掲載したうえ、 図(これも共同の配信)まで入れたから、非常に分かりやすい。 相変わらず校閲が機能していないなぁ。

 見出しはあるのにその部分に関する記事がない事例は、 20日付朝刊社会面でも見つけた。 台湾関係の記事に「陳総統と本紙社長の会見」という見出しがある が、記事の中には「会見」の「か」の字もない。はてな?

 この台湾関係の記事は混迷を深めてゆく。 翌21付朝刊1面の「那覇経由の台中交流」の記事に いきなりこう書いた。台湾の陳水扁総統や首相が <宮里昭也琉球新報社長との会見で、 沖縄と台湾との経済交流促進や那覇経由の台湾―中国 航路実現に意欲を示した件で>と。こういう表記は、 すでに報じた記事の続報を書く場合に使う。 新報の社長が会見したという記事は全くない。 それなのに、強引に「会見があった」ことを既成事実化しようとしている。 目を覆いたくなるくらい恥ずかしいぞ(私が 恥ずかしがっても仕方ないのだが)。さらに指摘しておきたいのは、 前日の記事には「表敬」したとあるだけで、「会見」とは書いていない。 新聞の報道は連続性が必要で、イロハのイなんだけれど、 それができていない。社長さんが出てくる話なので、 強引になってしまったのか。社内力学に基づく おべんちゃらのニオイが漂う記事は、読んでいて気持ちが悪い。 これでも“社会の公器”と言える?

 森屋さん殺害事件の初公判では、加害少年が最初から森屋さんをだまそうとし ていたことが冒頭陳述で明かされた。17日付夕刊社会面は この部分を落としている。公判中に森屋さんのお父さんが 加害少年を殴るという偶発事故があり、『タイムス』は 「少年法に詳しい沖縄国際大学の小西由浩助教授」の 「事件に対する憎しみを安易に加害者の重罰化に 転化する風潮がある」という論評を載せた。 少なくとも私にはこんな「安易」なことは言えない。自分の子供を 殺された経験がない私には、絶対に言えない芸当である。 ましてやこういう問題に対して「風潮」という あいまいな表現を使うのはどうだろう。本当に本当に 数字で裏付けられているなら、それをもとに論評すべきだった。

 雑感を1つ。「福島県と交流宣言」という記事(14日付朝刊2面)を 読むと、沖縄県と福島県が 「教育や文化、経済などの分野で相互交流を促進する」ことが 分かった。ただし、記事をよく読むと、「福島―那覇の航空便の 利用促進を図る福島側と観光客誘致に取り組む沖縄で 理念が一致し」とある。これが本音だろう。「理念」というより 「利害」あるいは「利益」というのが正しい。確かに、福島県は 沖縄便の利用客が少ないのを気にしてきた。要するにカネさぁね。 カネがまずありき、というのがどうもなぁ。ところで、福島―那覇に就航してい て、 一番最初に(唯一?)利益につながる日本トランスオーシャン航空は どこにいるの?

 2003年2月6日付朝刊から20日付朝刊を対象にした。(沖縄王・西野浩史)






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