“観光立県”が漏らしたその「ひとこと」を追う

 米国の同時多発テロの影響で、沖縄県への 観光客が激減したのは1年前のことだ。沖縄が大好きで、 沖縄のために何かできないかと思った北海道上磯町在住の会社員、 山下秀樹さん(45歳)は「ネーネーズ」公演を考えた。

 山下さんの友人が函館で経営している沖縄料理屋「琉球」で 働く女性が「私、ネーネーズの メンバーと幼なじみなんですよね」と語ったのがきっかけだ。 北海道で沖縄を盛り上げ、沖縄観光に少しでも役立つことができれば と思った。

 地元有志で実行委員会を組織したりネーネーズと交渉したりする中で、 沖縄観光コンベンションビューローに公演計画を伝える機会が あった。当時の「だいじょうぶさぁ〜沖縄」という 表現の使用許可を求めた山下さんに、ビューローは快諾する。 「ぜひ頑張ってください。何かできることがあれば言って下さい」と 激励された山下さんは、「後援にビューローの名前を 使わせてもらおう」と思い、ビューローの指示に従って 文書で依頼した。「コンベンションとしても宣伝効果があるだろうし、 こちらも箔がつく」という程度の狙いだった。

 しかし、待てど暮らせど返事が来ない。ポスター制作の 都合があるので、山下さんはビューローに電話した。 すると、電話に出た職員からこう言われた。「年度末で 忙しいんですよね……」

 山下さんはこの時の会話を振り返る。「私たちがこの企画を 暇つぶしでしているかのような、『ビューローは忙しいんだから 余計なことはしないでくれ』との言われかた」。思いがけない言葉に、 憤り、一時的とはいえ意気消沈してしまった。 名義使用のお願いに過ぎないのに、と。

 それでも山下さんは沖縄を嫌いになることなく、公演準備を 進めた。今年6月22日に開催した公演には1000人の観客を集めた。 最後の曲を歌う前に、涙で声を詰まらせながら「北海道に呼んでくれて ありがとう」と語るネーネーズに、山下さんの疲れは吹き飛んだ。

 山下さんが自腹を切り、自分の時間を費やし、 公演が失敗に終わったら損金の半額を山下さんが負担する 約束をしてまで取り組んだのは、ただただ沖縄が好きだからである。 そんな山下さんだから、前述のひとことにガックリきた。

 ビューローのひとことが本当なら“観光立県”の窓口として失格である。山下 さんから 聞いた話を私はビューローに説明し、「どう考えるか、教えてほしい」と 伝えた。約2週間後に返事が来た。 「調べてみたが、(職員は誰も)はっきり覚えていない。 事実関係が明確でないと、発言できない。ただ、事実だったとしたら お詫びしたい」。このあとビューローは山下さんに電話し、 山下さんはそれでもって諒とした。

 山下さんのような熱烈な恋人がいる沖縄は幸せ者である。 沖縄のために自腹を切ってくれる人がどれほどいるかを考えれば、 山下さんの重みが分かるだろう。大切にしないと 罰が当たる。ところで、コンベンションビューローって どういう意味だ? 日本語にしたほうが分かりやすいと 思うのは私だけか?(沖縄王・西野浩史)






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