首里劇場に歴史あり

 人間の「三大欲求」と言えば、食欲、睡眠欲、 そして性欲である。3番目の欲望を満たしてくれる 映画館は沖縄には数館しかない。電話帳で見た限りでは 3館程度だ。

 ある朝、首里界隈を散策していると、視界に突然 飛び込んできたのがこの映画館だ。 正式名称は「首里劇場」という。かなり大きな 建物である。

 外観の荘厳さに見とれていると、正面玄関付近で 黙々と水撒きや掃除をしている男性がいる。 この映画館を親子2代で支えている 金城政則さん(48歳)だ。

 仕事中に失礼かと思ったが、「どうしても館内が見たいの ですが?」と申し出たところ、拍子抜けするほどあっさりと 「ああ、いいですよ。見てみますか?」 と答えてくれたばかりか、仕事の手を 休めて、ささっと館内へ案内してくれた。

 かつて学生最後の記念にと風邪気味の友人を無理や り成人映画鑑賞の同罪に巻き込んだ“犯罪歴”のある 私にとっては2度目の淫行、ってことはないか。
 
 政則さんの話によると、かつては沖縄芝居の老舗として 名声を集めた。由緒正しい芝居劇場だったのだ。 それで「映画館」という表現ではなく「劇場」となっているのかと合点がゆく。

 館内は座席数120で、2階席もある。いたるところ老朽化が 著しく、雨漏りもする。でも、築50年以上の歴史があるせいか、 それなりにレトロな雰囲気がある。今日ではかえって 新鮮味を感じる。

 スクリーンの裏手に廻るとかつての栄華を誇ったであろう 劇団員たちの控え室として使われた跡がある。50年以上も 前の垂れ幕まであり、 「諸行無常の響きあり」を思い出した。

 「もうけはほとんどないですよ。でも、親父の代からの ものですから、絶やすわけにはいかないですのでねー」。 父親の田真さん(88歳)は現役で頑張っているそうだ。

 「以前は2本でも十分に客は入ったんですが、 今では3本にしないと来ませんねー」。 料金表に目をやると、大人900円、学割800円……。 ん? がくわりー?
 
 レンタルビデオ屋で1本300円弱のものを3本借りて 見るのと、映画館のワイドスクリーンで見るのと、 どっちが感じるんだろう。家の人がいつ帰って来るとも 知れない部屋でドキドキしながら見るよりは、 堂々と大型スクリーンに没頭出来る映画館の方が いいかもしれない。学割の存在価値を知った。

 客は日に20〜30人程度は来るそうだ。 「一人で来たらお尻に気をつけなさいよ。ホ モもいるからねー。 ははは」。政則さんは 急に少年のような笑いで冗談を飛ばす。

 それにしても、あたりは住宅街である。 風景に溶け込んでいるのは 歴史の重みゆえなのだろう。

 数日後、変酋長と現場を訪れた。 あいにく開館前で、政則氏はまだ来ていない。 帰ろうとしたら、原付きバイクの足置きに野菜を乗っけた おじいが、トコトコッとやって来た。バイクを降り、 3本立ての看板まで歩いて行ってじーっと見入る。  我々に気づくなり、「今日は木曜だから、 開くのは午後1時からだよ。あとで来たらいいさぁー」と、 あっけらかんと声をかけてきた。 常連さんらしい。おじいはバイクにまたがり、 さっそうと走り去った。

   首里の成人映画館・首里劇場は、 赤字ながら、しっかりと地元に定着しているんだなぁと 妙に納得し、安心した我々は現場を後にした。 (沖縄王・BEEN仲栄真)






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