IT立県に異議あり!
ブロードバンド時代を前にしたお粗末な態勢


 インターネットを利用する時間が増え、我が家も 現在のアナログの通信速度ではストレスが たまるようになってきた。 ISDNの導入を考えたが、最近は雑誌もテレビCMも ADSLばかりだ。確かにISDNの約20倍の速度で、 通信費はかなり割安である。 そのADSLの導入を念頭に、NTTにさっそく 問い合わせてみた。

 ADSLを利用するためには、 中継電話局から1キロ以内の場所でなければならない という話を聞いたことがある。まずこのことを確認した。 この基準は確かにあり、我が家は条件を満たしていた。 さっそくNTTのADSLサービスを予約した。

 それから2ヵ月が過ぎ、ようやくNTTから 「工事日はいつにしますか」という連絡が来た。 ところがこの2ヵ月の間に私はいろいろな資料を集め、 各社のADSLサービスの料金を比較していた。 当たり前だが、より安いサービスを利用したいからだ。 NTTに「もう少し検討したい」と話したところ、 「早くしないと今回の予約はキャンセル扱いになり、 その後また予約をしても工事までさらに2ヵ月 かかりますよ」という返事だった。仕方がないので、 今回の予約は取り消してもらった。

 ADSLサービスについて調べている中で、 「沖縄テレメッセージ」という会社(以下テレメ)が プロバイダー料+通話料込みで月額2500円 (24時間つなぎ放題)という格安のサービス「テレメADSL」を 出していることを知った。いろいろと考えた末、 この「テレメADSL」に申し込むことに決めた。

 中継電話局からの距離という条件は問題ないので、 申し込みの後テレメから「一週間後には工事ができると 思います」という連絡を得た。高速通信に生まれ 変わって快適に動くネットの画面を思い浮かべながら、 私は工事日を楽しみに待った。

 ところが、一週間後に来たテレメからの電話は 意外な内容だった。「NTTに確認したところ、 そちらの回線は光ファイバーになっているそうなんです。 だから、ADSLを利用するためにはアナログ回線に戻す 必要があるんで、別途1万2600円の工事費がかかる ということなんですが、どうしますか」

 は? 光ファイバー? 聞いたことはあるけれど、 うちの回線がいつの間に? それに1万2600円ってどういうこと!? NTTからそん な説明は全くない。

 第一、こっちは頼んで光ファイバーにしてもらった わけではない。光ファイバーを使えば通信速度は 100倍速くなるらしいが、その恩恵を受けられるならまだしも、 そんなサービスは少なくとも私の住む地域(与那原町)では 行われていない。

 テレメからの連絡に、私はすぐに判断することが できなかった。テレメADSLの初期費用だけでも 約3万8000円かかるのだ。さらに得体の知れない工事費を 足したら5万円を超えてしまう。

 どうしてその工事費用を利用者が負担しなければ ならないのか? NTTが勝手に光ファイバーにしたのだから、 それでADSLが利用できなくなっているのなら、 利用できるようにやり直してくれればいいだけの話だ。 これは無償で行うのが筋というものだろう。 私はテレメADSLの申し込みを一時保留にしてもらい、 工事や工事費についてNTTに直接 問い合わせることにした。

 ところが、NTTの担当者はまったく要領を得ない。 「インターネットを普及させるために光ファイバーにしている」 などと能天気なことを言ってくれる。 光ファイバーのままではADSLを使えないのに 何をもって「普及」と言うのか。 NTTの都合で利用者に負担を押し付けることになっている ことを理解できないのだろうか。

 NTTの言い分は「光ファイバーを進めてるうちに 他社がADSLを出してきたので、 こっちも慌てて対応に追われている」ということだった。

NTTの与那原局は近いというのに・・・  ADSLがもてはやされているが、 実際のところADSLは光ファイバーに全面移行するまでの つなぎの技術でしかない。本命は光ファイバーであり、 将来はすべて光通信になると言われている。 それならなおさら光ファイバーを敷設した地域には ADSL並みの料金で光ファイバーのサービスを提供することを 急ぐべきである。 他社が始めたADSLのサービスに血迷うことなく、 堂々と光ファイバーの推進を続ければよい。

 しかし、NTTの担当者はこう言う。 「光のサービスは来年かさ来年か……。 地方はどうしても後回しになっちゃうんですよねぇ」。 何だと!? だったらどうして沖縄県島尻郡与那原町という、 どう考えても「後回し」にされる地域に光ファイバーを 通してしまったのか。これも後回しにしてくれれば、 我が家はADSLを利用できたのだ。

 電電公社の名残やさまざまな思惑が交錯しているせいか、 NTTは通信に関して未だに独占しているものが多い。 だからテレメのような良心的な料金を出す会社が現れても、 NTTが邪魔をするような結果になってしまうのだ。

 さらに、私たちは目に見えないものに対して 言われるままにお金を払わされている。  わざわざ光ファイバーからアナログに(つまり新しいものから 古いものに)戻すための工事費にしても、 その1万2600円という数字はどこから算出した料金なのか。 こっちは直接回線を見て確かめることはできない。 ものすごく手間のかかる工事なのか、 もしスイッチを切り換える程度の工事なら1万円以上とるのは ぼったくりだ。

 なぜ1万2600円もかかるのかをNTTに聞いたところ、 担当者は「実際の工事費は4000円ほどなのですが……。 テレメさんの手数料を加えるとそのぐらいになるのかも しれませんね……」とうやむやな口調で答えた。 これをテレメの担当者に伝えたところ、 「え、工事費はNTTから言われた金額ですよ。 手数料なんて取ってません」と半ばあきれた様子だった。 テレメとしても、そんな工事はNTTが無償で請け負ってくれれば問題ない。この 工事費についてお客さんから「どうして?」という 苦情が多く寄せられ、困っているそうだ。

 さらに工事費についてあいまいに答えたNTT担当者は 「アナログの回線が残っていれば工事で切り替えることが できるが、光ファイバーしか通っていない場合はADSLを 利用することは不可能」と言っていた。 私は、あらためてうちの回線の状態を詳しく知りたいと思い、 聞いてみた。ところが、 「ADSLサービスの予約をしないと、回線について答える ことは出来ない」と言われた。

 テレメから光ファイバーのことを聞かされた直後、 実は私はNTTのADSLサービスを再び予約していた。 私の目的は、 光ファイバーなどの説明があるかどうかを 確かめたかったのだ。 私は「もう予約はしてあるので、早く回答し てください」と言って電話を切った。

 回答はその日の午後に来た。 私が外出中だったため留守電に以下のような メッセージが入っていた。 「お客様のADSLの予約は8月の時点で 取り消しになっています。というのは、お客様の NTTの設備がADSLのサービスの条件になっていない からです。ご了承ください」。これだけ。 これで解決させたいってことか。

 8月の時点というのは、私が「検討したい」と言って 工事の日を決めることなくキャンセルしてもらった時である。 NTTから「ADSLサービスの対象外」と言われて 取り消しになったわけではない。前述したように、 早く工事の日を決めるようせかされたほどだ。

 これはどういうことなのか。もしかしたら、 その工事というのが光ファイバーから アナログ回線への工事のことだったのかもしれないが、 それにしては説明がなさすぎた。 それに「工事日はいつにしますか」という連絡は、 「工事をすればADSLを利用できる」ということになるから、 今回留守番電話に吹き込まれたような 「サービスの条件になっていない」で 終わらせるのはどう考えてもおかしい。

 夫は怒った。NTTに電話をかけた。 「とにかく、アナログ回線に無償で戻してください。 頼んで光ファイバーにしてもらったわけじゃないんですから。 アナログに戻してくれればそれでいいんですよ」。 夫は回線の状況や工事の内容、過去のやりとりについて 説明を悠長に聞くつもりはなかったようで、 「ADSLを使える環境に戻して欲しい」という一点だけを 単刀直入に求めた。

 考えてみれば、「インターネットを普及させたい」と言うならば、こうした問 題に早急に対処するのがNTTの義務である。 基本的な回線の段階でこんなお粗末な状況では、 利用者は本当に困ってしまう。

 そもそもADSLには「中継電話局までの距離が1キロ以内」と いう制限があるにもかかわらず、雑誌やテレビで大々的に 宣伝をすること自体が不思議でならない。沖縄県は ITに力を入れているようだが、足元を見た限りでは、 都会より後回しにされ、ちぐはぐな対応に終始するという 現実がある。利用者不在の現状を一刻も早く 改めてほしいと願うのは、ぜいたくなことなのだろうか。 (沖縄王・伊藤珠央)






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