見よ! 一度見たら決して忘れることのできないこのインパクト!!


おもしろ看板生みの親の佐渡山さん自身、風邪はひかないが三味線はひく!


愉快な佐渡山さんだが、仕事を始めた途端、職人さんの顔に変わった


車にもユーモラスな一文が記されている
おもしろ看板
「カゼひかずに 三味線ひこう」の巻


 季節はずれのインフルエンザにうなされたか弱い私(編集部員S。しかし、 「鬼のカクランさ」という声が編集部内にあり))が ようやく回復し、取材先を訪ねるため国道329号線を北上していた時のことだ。 思わず吹き出してしまった「おもしろ看板」を発見した。 この看板には、まるで私が病み上がりであることをお見通しであるかのように こう記されていたのだ。

 カゼひかずに 三味線ひこう

 吹き出したものの、高熱が続いてチューアタイした (=直訳すると「強くあたる」。かなり弱ってしまった。まいってしまった) 直後の私は、「である。ヤサ(そのとおり。おっしゃるとおり)」と、 深く感心してしまったのだ。そうだよ、どうせひくなら風邪じゃなくて サンシンがいいに決まっている。 もう、こうなると、看板の製作者に何が何でも会いたくなる。 で、早速お店を訪ねた。

 この「おもしろ看板」を掲げているのは 石川市にある「丸山シート製作所」だ。 三味線の製作販売だけではなく、スナックなどのシートやカーテンの 製作販売もしている。一級技能の資格を持つ、 れっきとした職人さんのお店である。

 経営者の佐渡山安栄(さどやま・あんえい)さん(54歳)に あいさつし、 沖縄王について若干説明すると、 「インターネット? ワンネー ディキランヌー ヤクトゥ  ヌーヌチムエーヤガ ワカランシガ(私は劣等性 だからインターネットなんてどういうものなのか理解できない)」と 言われてしまった。おまけにクルリと私に背を向けてしまったのだ。 取材拒否か?!

 「しかしなぁ、ディキランヌーだったら、あんなにセンスのいい 看板はつくれないよなぁ」と思い直し、取材に応じてくれるよう もう一度口説こうと考えた。その矢先のことだ。 背を向けていた安栄さんが私の元へやってきて、 よく冷えた缶コーヒーを目の前に差し出した。 そして、「ネェサン、ヒヤシムン(冷たいものを)飲みながら。暑いのに」と、 店の奥の席へと私を促したのだ。 私に背を向けたのは冷蔵庫から冷たい缶コーヒーをとってくれたからだった。 ラッキー! 思わず胸の内でガッツポーズ。と同時に、優しい気遣いに感動 してしまった。

 「もう20年以上も使っているさぁ」という業務用のミシンを囲みながら、 お話をうかがう。さまざまな種類の三味線が並ぶ 陳列ケースのガラスにも赤い文字で「カゼひかずに三味線ひこう」 と記されている。こちらで販売している三味線の値段は3万円から。 上限はきりがないとのこと。 佐渡山さん自身、親戚の結婚式やお祝いの時には三味線を奏でる。 謙遜しているが、かなりの腕前だと思われる。 というのは次のようなエピソードを耳にしたからだ。

 石川市立城前小の5年生が昨年度の学習発表会で 安室奈美江の「NEVER END」を演奏することになった。 その曲の三味線部分を工工四(琉球古典音楽の楽譜)に してもらうよう依頼を受けた安栄さんは、 テープを何度も聞きながら作成した。 その後、7〜8人の子どもたちが店を訪れ、 安栄さんの指導のもとカンカラサンシンを製作した。 子どもたちは、そのサンシンで 安栄さんの工工四を見ながら練習を重ねたのだ。 発表会本番の日、招待状をもらった安栄さんは 子どもたちの晴れの舞台に声援を送った。 「ジョージヤタンドー(上手だったよ)」と、 その時の様子を目を細めて語る。

そうそう、肝心の看板について話を戻そう。 この看板は1年ほど前に安栄さんの弟で共同経営者の 安春(あんしゅん)さんとともに作ったのだという。 「店の壁面のスペースを無駄にせず、 何かつくれないかなぁ」と考え、ひらめいたのだとか。 この看板を掲げてからというもの、初めて訪れるお客さんは 「ネェサン(=私のことね)と同じように ナマジラワレーして(笑みを浮かべて)入ってくるさぁ」という。 そりゃそうだ。

 丸山シート製作所は宜野湾市内に支店があるという。 そこにもおもしろ看板が存在するのかな? とワクワクして尋ねてみたら、 ひとこと「ない」。「書くところ(スペース)がないから」という 単純明快な理由だ。 安栄さんのキャラは思いっ切りイカシテイル。 「カゼひかずに・・・」のほかに 「男はサンシン(三味線)、女はニンシン(妊娠)」 という、これまたスゴイ案が浮上していたようだが、 さすがに見送ったようだ。

 ところで、経営者は佐渡山さんなのに、 なにゆえ店名は「丸山シート製作所」なのだろう。 「字ヌカチヤッサクトゥ (佐渡山よりも丸山の方が字が書きやすいから)」と、 これまた意表をつく答え。 おもしろすぎるよ、安栄さん。

 お店には、安栄さんの元同級生という男性がいて 「これ(安栄)は昔からウヌフージーヌ クトゥビケー カンゲートータン (このようなおかしいことばかりを考えていた)」と貴重な証言をしてくれた。 やっぱり。

 取材の途中、店を訪れた外人のお客さんがいた。 安栄さんは「ハ〜イ」と声をかけたので、 「もしかすると英語も堪能?」と思っていると、ナント、 この外人さんの方が流暢な日本語で話すのであった。 この外人さんは三味線がとても上手だという。 ウチナンチュよりも、ヤマトゥンチュや外人が三味線を弾くようになっている。 ウチナンチュも頑張らんといけないというような話で ひとしきり盛り上がる。私も風邪をひいている場合ではない。 ウチナンチュの一人として、 遅ればせながら三味線を習おうかなと本気で思いかけた時、 元同級生がひとこと「でも、女はサンシンよりも琴の方がいいさぁ」。 またしても肩透かしにあってしまった。

「インターネットは分からん」と言う安栄さんに、 元同級生が知り合いの店の話をした。 知り合いの息子が店のホームページを作成したところ、 ヤマトゥから注文が殺到して儲かったという内容だ。 安栄さんはそれこそナマジラワレーして 「ネェサン、丸山シートも宣伝してよ」。 「もちろんですよ」と答える私に 「モーキーンネー ヤマワキサーヤ(儲かったら山分けしようね)」と 屈託のない笑顔で語る。 「また遊びにきますので、儲かっていたら、 また缶コーヒーをください」と言う私に、 「アンシェー モウキトーレー ターチ アギーサ (儲かっていたら、缶コーヒーを今度は2つあげるよ)」と 約束してくれた。 というわけで、 この記事がきっかけで丸山製作所から三味線を買うことになった方がいたら、 ぜひ「沖縄王を見てきました」と伝えてください。 あなたには安栄ワールドの笑いが、そして、 私には缶コーヒーが2つ待っているはずです。

 取材を終えて帰ろうとすると、 「ネェサン、スヌイ ムッチイケー(モズクをもっていきなさい)」と 呼び止められた。元同級生が新鮮なモズクを たくさん持ってきていたらしい。 そのおすそ分けをしてもらったのだ。 ありがたくいただいて帰った。 夕飯のおかずに加えようと思い、 母にモズクを手渡した。「どこに取材に行ったの?」と母。 「石川のシート製作所」 「シート製作所にモズクがあったわけ? なんでね?」 「だっからよぉ、なんでかねぇ」

丸山シート製作所
住所:石川市字東恩納647
電話:098-965-3173
営業時間:午前8時〜午後9時ごろまで
定休日:日曜





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