住所:那覇市壺屋1−34−1
地図
電話:098−863−5034
営業時間:午後6時から午後11時
      土曜は正午から午後3時も営業
定休日:月曜
駐車場:ない



メニュー
おまかせ定食 700円
オムカレー定食 700円
沖縄のお汁定食 700円
沖縄料理盛り合わせ定食 1000円、豚肉料理つき 1200円
月桃アイス 350円
泡盛やビールなどもある
沖縄伝統料理の鉄人「にんじん食堂」

 この店の姿勢を示す張り紙が店内にある。 まず、それを紹介しておきたい。

<お客さまへ 当店は食べものをむだにしないために、 食べていただきたい料理を日がわりで用意しています。 お好きな料理を注文することができませんが、 ご了承ください。そのかわり、手にあぶらして時間をかけて つくっております。また、むだがでないので料理も 安くすることができました>

 店の食卓には、「本日のおもてなし」と 書かれた紙が置かれている(写真1枚目参照)。 これを見れば、「おまかせ定食」の内容が分かる。

 私の場合、トシとともに食い意地が張ってきたせいか、 「手の込んだ料理を食べたい」「その辺にない料理を食べたい」 などと思うようになった。ついでに価格が手ごろなら最高である。 この3つをかなえてくれる店が「にんじん食堂」である。店内は こぎれいだ(写真2枚目参照)。

 「にんじん」とは沖縄の方言で「人間」のことを言う。 これに、栄養価の高い「人参」の意味を含めて、店の 名前にした。

 本土から友人や知人が 来た時には必ずといっていいくらいこの店に連れて行くか、 「この店はいいよ」と紹介する。 琉球新報ワシントン駐在の森暢平さんなどは「うまいうまい」と 連発しながら食べていた。

 店を切り盛りしているのは、 実方藤男さん(55)と大道寺ちはるさん(44)である(写真3枚目参照)。 苗字を見れば分かるように、2人とも本土出身だ。 実方さんは著述業を、 大道寺さんは出版物の校正をしていた。それをやめて 沖縄に引っ越してきたのは1999年6月上旬だった。

 旅行が好きで、沖縄や東北を何度か訪ねたことがある。 料理にも興味があり、沖縄に来るたびに料理を食べ、 沖縄料理の本を買い込んでは東京で作ってみたりした。 こういうことが伏線になった。「今の仕事をやめて何かしよう」と なった時、「冬の東北は雪下ろしが大変そう。沖縄は 衣服はそんなに必要なさそうだし」と比較検討して 沖縄を選んだ。

 99年11月19日に新規開店した。料理の種類は 多岐にわたるが、ちゃんぷるー類を主にした料理は 意識的に避けているし、そばも作らない。「食堂は本来、 家庭よりもおいしい料理を出さなければならない」というのが 実方さんの考えだ。

 ところが、家庭で食べる料理の味も 店で食べる味も変わらないことが多い。大衆食堂に ちゃんぷるー料理が多いのは、「注文を受けてから 短時間に作れる手軽さ」にある可能性が高い。 イリチー類などは時間をかけてあらかじめ作って おかなければならないし、あまってしまえば捨てるか 自分で食べるしかない。大衆食堂はこのような“危険性”のある 食べ物を作りたがらないように見える。 この結果、「ちゃんぷるー類の手軽さが、ほかの料理を淘汰している」と 実方さんが指摘する“事態”になっている。

 というわけで、にんじん食堂の料理は、手が込んだもの ばかりだ。実際、知恵と工夫でもって料理している。 一例を挙げよう。ゴーヤーを切る時、普通は輪切りにする。 でも、にんじん食堂ではタテに切る。そうすれば、 ゴーヤーの裏側にある白い部分(まずい部分)を簡単に 切り落とすことができるのだ。

 また例えば、卵焼きを作る時でさえコツがある。 人のナトリウムの体液濃度は0.8%で、この濃度が 人に合うと言われている。卵には0.3%含まれているから、 体液濃度に合わせるには、ナトリウムを0.5%加えてやればいい。 卵は1個が50グラム程度だから、2個で100グラムだ。 100グラムの0.5%は0.5グラム。だから、卵4個につき 1グラムのナトリウム(塩)を加えてやればいい。

 さらに例えばソーキ汁を作る時、ソーキ肉には アブラが多いので、ぐつぐつ煮てそのお湯全部を 捨ててしまうことがけっこうある。しかし、そのお湯の中には アブラだけではなく、うまみ成分も染み出しているのだ。 全部捨てるのはもったいない。そこで、お湯を 容器に移し、冷蔵庫で冷やす。アブラは白く浮いてくるので、 それだけ取り除けば、うまみ成分は残る。

 「料理はサイエンスなんです」と語る実方さんに、 私は深く頷いた。

 にんじん食堂はあくまでも 地元向けの店である。「フランスではフランス人が フランス料理を食べているのに、沖縄ではチャンプルーだけ。 沖縄の伝統料理は観光客が高い金を払って食べている」と 指摘する。実際、手間暇かけているのに、にんじん食堂の 料金は安い。ウラチキチヌクやうじら豆腐、ミヌダル、 耳皮煮こごりなどの伝統料理をそろえた「沖縄料理盛り合わせ定食」 (写真4枚目参照)がたったの1000円で食べることができる。 豚肉料理つきでも 1200円だ。加えて、18種類のお茶を混ぜた飲み物が 飲み放題でもある。

 これほどの良心的な店はあまりない。 この店を知ってしまうと、 「麦茶のパック」を容器やヤカンに浮かべて 安易な“麦茶”を作る食堂やチャンプルー類しか出さない ありきたりの食堂には行けなくなってしまう。

 現在は壺屋にあるけれど、年内に閉店して、 年明け以降に県内のどこかで料理宿として 新規開店する計画だ。宿の名前の第一候補は 「にんじん食堂」である。(沖縄王・西野浩史)





©2002, 有限会社沖縄王