これが名前のない老舗のジュース屋の外観だ


これが濃縮純度100%のシークァ−サージュース。 他に独自でブレンドしたコーヒーもある。 ブロック氷で保存されているせいか、いつもギンギンに冷えている


店主の小嶺勇さん。やさしい風貌である


やんばるで育ったシークァ−サーの実。 季節によって味が異なるとか。3月ものは甘めだそうだ



住所:那覇市牧志1−18−2
(第一牧志公設市場内) →地図
電話:090−1948−7313
営業時間:午前11時頃から午後8時頃
定休日:第4日曜+適宜
駐車場:ない




名前のない100円ジュースの老舗

 那覇市第一牧志公設市場の中で100円のレモン (実際はシ−クァーサー)ジュースとコーヒー(ホットとアイス)だけを 売り続けて50年という老舗があるのをご存知だろうか?

   新鮮な魚介類や精肉品を売り買いする市場の喧騒の中で、 唯一その店だけが静かに100円ジュース(消費税なし)を 売っている。店は公設市場入り口のすぐ傍らに鎮座しており、 うっかりすると通り過ぎてしまうほど小さい。

 周囲をガラス張りのカウンタ−で囲まれた店は 畳1畳ほどの広さだ。シークァーサーをつぶす機械と ジュースとコーヒー類を保存するクーラーボックスしかない。

 店主の小嶺勇さん(1954年4月10日生まれ)は、 4年前に亡くなった父・重秀さんの後を継いで、 22歳からここで働いている。勇さんは7人兄弟の4番目である。 長男ではないのに何故店を継いだのか。 「自分も最初はその気はなかったのだが、 内地での集団就職に飽きて沖縄でひと旗あげようと 帰ってきたものの、さしたる仕事が見つからず、まぁ、病弱な父親 の店を少し手伝おうかーという軽い気持ちで 手伝っていたら現在に至ってしまったサー」と 照れながら話してくれた。

 おっと、肝心のジュースの味を書くのを忘れていた。 新鮮なシークァーサーはやんばるから仕入れたものだ。 まず、きれいに手洗いし、いびつな個所は削り取る。 次に、何と! 皮のまま丸ごと専用の潰し機で ジュースにする。これに砂糖を加え、 凍らせて保存する。

 かなり濃縮され、酸っぱいけれど、 後味爽やか! これぞ生ジュースと言える おいしさなのである。夏場の暑い日に一口飲めば 夏バテ解消にもってこいだ。

 店の前に小さな長イスがぽつんと置いてある。 勇さんはお客さん一人ひとりに 「狭いですけど、そちらにかけてお休み下さい (お飲みください)」と笑顔で話しかける。

 しばらく観察していると、 観光客はもちろん常連さんも結構訪れる。口コミの なせるワザか? 中にはタッパ−で買いに 来るおばさんもいた。

 老婆心ながらこのご時世に100円で引き合うのかと うかがった。「公設市場は地場産業を振興育成する 目的で那覇市が持っており、 借地料がかなり安いので、 今でもこの値段でやっていける。ただ、最近はテレビ でシークァーサーの効用が流布されたために、 原材料の仕入れ値が跳ね上がって しまい、儲けは実のところとんとんなんですよ。 親の代から続いてきたこんなジュース屋でも、 お客さんがいる限り、絶やしてはいけないと思うのでやってい るだけですよ」と、あくまで謙虚な返事が返ってきた。

 朝は午前6時からの仕込みと店の掃除で始まり、 夜8時近くまでほとんど立ちん棒で働き詰めなので、 異性と巡り合う機会がなく目下独身である。

 最後に勇さんはにこやかにこう語った。 「インターネットでこの店を紹介するのは うれしいのですが、あまりお客さんに 来られても、作る間、こんな小さなスペースで 待たせてしまうのは失礼ですので、 ほどほどにお願いしますね」

 うむむ……あくまでもお客さんの立場に立つ姿勢に 脱帽させられた。歴史があるのに店の名前を未だに つけていない辺りも含めて「無欲」と言うことができる。 小嶺父息子の人柄がにじみ出ていると思うのは、 私だけではないだろう。

 お客さんが見せるおいしそうな顔と 親の店を継ぐ意思だけで半世紀もの間変わらぬ 味を提供し続けて来たここのジュースには「愛情」が 濃縮されているのではないか。――取材を終え、 長イスから立ち上がりかけて……やはり私は2杯目 の「愛情」を頼むことにした。(沖縄王・BEEN仲栄真)



メニュー

シークァーサージュース 100円
ホットコーヒー 100円
アイスコーヒー 100円
 



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